
旅行に行ったら、せっかくなので、ご当地のグルメに舌鼓を打ちたいと思うのは人情である。
例えば、仙台に行ったら「牛タン」、北海道に行ったら「ジンギスカン」は外せない。
「牛タン」や「ジンギスカン」は、なんとなく、有名だから「地元の食材を使っているはずだ」と思いがち、また、そう信じたいところであるが、実情は大きく異なる。
国産割合はどのぐらい?
「牛タン」、ジンギスカンで使われる「羊肉」について、輸入状況、国産の割合を見てみよう。
※仙台や北海道の地域限定でなく、国内全体の数字
牛タン

羊肉
- 国産割合約0.5%(消費量20,285トン、うち、輸入20,187トン、国産98トン)
- 輸入先:オーストラリア72%、ニュージーランド25%、・・・
(出展:令和4年度 農林水産省)

国産肉の使用割合は、私たちが想像よりもはるかに低い。ジンギスカンに使われる羊肉に至っては、1%未満である。
もちろん国産肉を提供している店もたくさんあり、また、上記の有名地であれば多少国内の統計値より国産割合が高いとしても、残念ながら、大部分は外国産の肉を使っているのが現実である。
「美味しければ外国産でも気にしない」という意見も理解できる。
しかし、少し立ち止まって考えてみたい。観光で訪れた先で、わざわざ行列に並んでまで仙台の「牛タン」や北海道の「ジンギスカン」を食べる。それは、単に味への期待だけではなく、その土地ならではの“本場感”や“地域の味”を体験したいという思いがあるからではないだろうか。
ところが、実際に出てきた料理の中身が、広大な海外の草原で育った牛や羊だったと知ったら——しかも、それがほとんどの場合だと知ってしまったら——なんとも言えない違和感が残る。
いわば、極論を言うと、「○○名物」と銘打たれているにもかかわらず、その“名物”の核心が実は地元とほとんど関係ないものだったということになる。
そう考えると、これは一種のズレ——いや、見方によっては、非常に滑稽な構図に映ってしまう。
「地元の味」を求めて並んだ観光客が食べているのは、冷凍輸送されてきた海外の肉だった。そんな現実に、私たちはどこかで目をつぶってはいないだろうか。
もちろん、これは単に「外国産だからダメ」という話ではない。むしろ、なぜ今この現実があるのか、そしてこれからどうあるべきなのかを、もう少し真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。
有名になった経緯について
これらがどのような経緯で有名になったのだろうか。
※諸説あり
牛タン
戦後の仙台で、太助(たすけ)の店主の佐野さんが、フランス料理や洋食でよく使われていた牛の舌(タン)と尻尾(テール)に注目。当時、食糧難の影響で、食肉加工時に「牛タン」や「テール」はほとんどが捨てられていた。それを、焼いたら美味しいのでは、と考えたのが始まり。
昭和~平成初期までは、仙台市内のローカルな名物という立ち位置。知る人ぞ知るB級グルメだった。でも1990年代以降、テレビやグルメ番組などで取り上げられたり、全国チェーンが登場したことで一気に知名度がアップした。
ジンギスカン(羊肉)
1910年代頃、日本政府は「羊毛」を国内で自給するため、羊の飼育を奨励した。北海道でもその流れを受けて、羊の飼育が本格化した。
羊毛だけでなく、余った羊肉の利用方法として生まれたのが「ジンギスカン」。これが北海道独自の食文化へと発展していった。
戦後になると、冷蔵・冷凍技術の進化や、北海道の観光ブームとともに、「ジンギスカン」は「北海道グルメ」として徐々に全国に知られるようになった。
すごい昔から有名だったわけでなく、特に「牛タン」は比較的最近出てきたもの。
また、経緯を見ると、もともとは国産を使っていたが、有名になって、安価に大量に肉を供給するために、外国産に頼るようになったと思われる。
ふるさと納税制度について
では、「牛タン」や「ジンギスカン」といった商品は、ふるさと納税の返礼品としてはどうなのだろうか。ふるさと納税制度は、地域資源の活用や地域経済の活性化を目的とした制度であり、返礼品には地場産品を使うことが原則とされているが、海外産の肉を使うことはOKなのだろうか。

返礼品に使用できる地場産品の線引きを見てみよう。
- 当該地方団体の区域内において生産されたものであること。
- 当該地方団体の区域内において返礼品等の原材料の主要な部分が生産されたものであること。
- 当該地方団体の区域内において返礼品等の製造、加工その他の工程のうち主要な部分を行うことにより相応の付加価値が生じているものであること 。ただし、当該工程が次に掲げるものである場合には、それぞれに定めるものに限ることとする。
イ 食肉の熟成又は玄米の精白 当該地方団体の属する都道府県の区域内において生産されたものを原材料とするもの
ロ 製品の企画立案その他の当該製品に実質的な変更を加えるものでない工程 当該製品の製造業者により、当該製品の価値の過半が当該地方団体の区域内で生じている旨の証明がなされたもの
- 返礼品等を提供する市町村又は特別区(以下この号及び第八号において「市区町村」という。)の区域内において生産されたものであって、近隣の他の市区町村の区域内において生産されたものと混在したもの(流通構造上、混在することが避けられない場合に限る。)であること。
※「総務省 地場産品基準 令和6年6月28日付け最終改正」より抜粋
この基準の3から読み取れるのは、原材料が海外産であっても、地域内で加工や製造など“主要な工程”が行われ、かつそれによって十分な付加価値が生じているのであれば、地場産品として認められる可能性があるということである。
つまり、たとえばオーストラリアやニュージーランド産の羊肉を使っていたとしても、それを地域内で味付け・調理・パッケージングし、「○○町のジンギスカン」としてブランド化している場合には、加工によって付加価値を生み出していると評価され、返礼品として認められる可能性が高い。
実際、多くの自治体のふるさと納税返礼品には、「牛タン」や「ジンギスカン」が並んでおり、商品の説明欄には「加工地:○○町」と明記されている一方、原材料欄には「オーストラリア産」「ニュージーランド産」といった表記も見られる。これは、制度的に「製造・加工による付加価値」が評価されていることを表しているとも言える。
もっとも、本来的な意味での「地場産品」とは、基準の1や2にあるように、地域内で生産された原材料を使用することが理想である。それは、地域の生産者を支援し、地域の一次産業を守るという制度の本旨にかなっている。しかしながら、現実にはすべての自治体が自前で原材料を用意できるわけではなく、特に畜産など時間もコストもかかる分野においては、地元産に限っていては返礼品が成り立たないという事情もある。
そのため、制度上は「製造・加工工程での付加価値」を条件とした“落としどころ”が設けられているのであり、これは返礼品の多様性を確保し、制度の運用を柔軟にするための現実的な判断と言える。
このように見ていくと、今後さらに地元産の割合を増やしていくことができれば、制度の理想により近づくと同時に、地域としての誇りやブランド力も一層高まるのではないだろうか。単に制度に“合致している”というだけでなく、地域として「どのような価値を提供したいのか」を考えながら、ふるさと納税の返礼品を設計していく姿勢が求められているのかもしれない。
もっと地元産を増やしてはどうか
現在、「牛タン」や「ジンギスカン」といった人気のあるご当地グルメは、観光客だけでなく、地元の人々からも高い支持を受けている。しかし、実際に使われている肉の多くは、必ずしも地元で生産されたものではなく、海外から仕入れたものに頼っているのが現状である。それでもこれだけの人気を集めているということは、すでにこれらがしっかりとしたブランドとして確立しており、一定の信頼と認知を得ているからだと言える。
こうした背景を踏まえると、仮にこれらのご当地グルメに地元産の肉をもっと取り入れることができれば、味や品質における差別化はもちろんのこと、「地元で育てられた」というストーリー性や安心感も加わり、商品としての付加価値はさらに高まるだろう。たとえば、地域の畜産業者や農家と連携して生産から販売までを一貫して行うことで、地元経済の活性化にもつながる。
実際に、ジンギスカンの例で言うと、北海道士別市のように「羊のまち」として地域全体で羊の飼育に取り組んでいる例もあり、ここでは希少価値の高い「サフォーク種」の羊を育て、肉質にこだわった高級ジンギスカンを提供している。こうした取り組みは、観光資源としても非常に魅力的であり、グルメを目的に訪れる人々にとっては大きな訴求力となる。

もちろん、羊の飼育には課題も多い。牛や豚に比べて成長が遅く、肉として出荷できるまでに時間がかかるため、飼育コストが高くついてしまうという現実がある。また、安定した供給を続けるには、一定の頭数を維持しなければならず、人手や設備の確保も必要だ。しかし、こうしたハードルを乗り越え、地域で力を合わせて取り組むことができれば、他にはない独自性を持った「ご当地グルメ」が生まれる可能性が高い。
地元産の原材料を使った商品は、単に「おいしい」だけではなく、その土地の気候や風土、育てた人々の思いなど、目には見えない価値を含んでいる。それらが一体となったとき、消費者にとっては「食べる」という体験が、より豊かで意味のあるものになる。
だからこそ、地元産の割合を増やしていくことには、大きな意義があるのではないだろうか。