はじめに
落ち込んだ時、打ちひしがれた時――。
そんな時、自分の中だけで考え込んでいると、どうしても「だめだ、だめだ」と堂々巡りになってしまうものです。
そんな時こそ、外の世界に目を向けることが大切で、自然に触れることも一つ、何かのメディアに触れることも一つだと思います。
特に「本」は、心を癒し、失いかけた自信を取り戻すための、力強い味方になってくれます。
これから、不定期ではありますが、私が実際に読んでパワーをもらった、「内向的人間に刺さる本」を紹介していきたいと思います。
第1回目は、「本多信一」さんの本です。
似た名前に著名なジャーナリストの「本多勝一」さんがいらっしゃいますが、「本多勝一」さんではなく、「本多信一」さんです。
本多さんの著作は、特に私の青年期において、まさに「心の救い」となりました。
読み返すたびに力をもらい、今でもとても尊敬している方です。
本多信一さんの略歴
- 1941年東京都生まれ
- 子どものときから内気と人見知り・緊張癖の持ち主
- 私立城北高校-中央大学法学部の間には登校拒否時代が長かった
- マスコミの時事通信社に入社
- しかし、超内向型で非組織型の性格ゆえ、6年で退職
- その後、自身の苦しみをもとに、内気で悩む人のための無料人生相談業を天職にしようと決意し、1971年に「現代職業研究所」を創設、一万人以上の相談に乗る
- 2024年永眠
普段は執筆、講演活動、中小企業診断士として生活収入を得ながら、火・木・土曜日には相談日を設け、多くの悩める人々に寄り添ってこられました。
話し下手、人交わりが苦手、集団下で緊張する――生きること自体が苦しみであったご自身の経験をもとに、同じ内向的な仲間のために、手弁当で支援を続けた、その志は本当に素晴らしいと思います。
執筆活動では、内向的人間のビタミンになる多数の本を出版されています。
私の地元北海道の北海道新聞の連載コラムでも、本多さんの文章を目にしたこともあり、うれしくなった記憶があります。
本多信一さんの文章から
本多さんには、
『内向型人間の生き方にはコツがある』(大和出版)
『内向型人間だからうまくいく 「タダの人」としてゆっくり生きよう』(PHP文庫)
『がんばらなくてもいい』(こう書房)
など、多数の著書、おそらく100冊ほどの本を出されていますが、残念ながら絶版となっている本が多いです。
どの本も人生訓のようなエッセイで、私はその中から5冊ほどを愛読書として手元に置いています。読むたびに気づきがあり、内向型の自分にとって、大切な道しるべとなっています。
ここで、著書の一つである
『内向型人間の仕事にはコツがある』(大和出版)
より、著者の語り口や、思想を感じてもらうために、気に入っている文章の一部を紹介します。
13 批判されることに慣れよう
仕事が山奥の「たったひとりの炭焼き業」(いいですねぇ、私の憧れですけれど……)ならいざ知らず、ほとんどの仕事は世間の中に存在する。世間にある仕事に就けば、それがお勤めの形であれば、必ず上役下役ご同役という三タイプの人々に出会う。人と出会って、その相手が全てこちらを認めてくれるようなことは、天国にしかなくて――この現実世界においては、だいたい「三対三対四の法則」(三人から嫌われ否定され、三人から認められ、残る四人とは極めてアッサリした他人の関係となる)が行われていることになる。つまり、「あんたってダメだな!」と言われることは日常茶飯、どこに行こうとそうなのだ。
私たち内向的男女はナイーブ過ぎるために誰かひとりにでも「あんたはダメ」と言われるや、たちまちヤル気をなくし、"塩をかけられたナメクジ"のごとく、みるみるうちに小さくなってしまう。
(中略)
それは必ずしもこちらの全人格の否定という意味ではない。
(中略)
深く考え込む必要はなく、「そりゃあ、ないですよ!」と軽く切り返しておくとよい。重いことを軽く受ける軽受という在り方を、お互い身に付けたいものである。
(P.99-102)
何でも真に受け止めてしまい、切り返せずに抱えてしまうのが、内向性のさが。少しでも跳ね返せるようになると、全然違いますね。
21 お勤めがダメなら創業する道もある
一見、実に難しいと思える独立事業、自由業の世界は、内向型人間にとって検討範囲である。なぜなら会社、官庁の濃密な人間関係に疲れ果て、気遣いのかぎりを尽くす内向型は、エネルギーの大半を人間関係に用い、肝心の仕事には10%ぐらいしか発揮出来ていない。したがって、他人に気兼ねなく己れひとりの事業に100%の力を発揮することができ、・・・
(P.152)
自営業は対人関係が苦手な人にとっては難しい、と考えがちですが、そういう側面もあるのだな、と気づかされます。
内向型人間は可能性がいっぱい………おわりに
私思うに、人間世界は外向型人間と中間タイプと内向型人間から成り立っていて、それぞれの役割があるのだと思えます。
(中略)
しかし、本来この二つのタイプ下の人々は、お互いに協力して「生き合う」べく作られているのだと考えています。
ですから、ソンな性格とみて大枚のお金をかけて矯正努力するより、「天は我に内向性を与えたなり」とアッサリと考えて、自分を活かす道を探し、・・・
(P.211-212)
この最後の文章に本多イズムの真髄が凝縮されていると思います。
本多信一さんの魅力
本多信一さんは、さまざまな人と会い、相談も受けて、講演活動も積極的に行うなど、非常にバイタリティのある人物です。その行動力を見ると「本当に内向的な人なのだろうか?」と疑問に思うこともありますが、根は非常に内向的なのです。
「内向的」であることは決して否定すべき性格ではなく、「内向的」だからこその長所に目を向け、自信を持とうという肯定的な姿勢を大切にしているところが、魅力の一つです。
本多さんの文章は、ご本人が実際に苦しみ、悩み、考え抜いた経験に裏打ちされています。
だからこそ重みがあり、内向型の人間が抱える悩みの本質を突いた、説得力のある言葉が心に響きます。
さらに、独特のユーモアにあふれた語り口、いわゆる「本多節」も大きな特徴です。
読者をただ甘い言葉で慰めるのではなく、時には厳しい現実を真正面から突きつけてくれます。そこにこそ、本多さんが読者のことを本気で考えてくれているという温かさが感じられます。
本多信一さんを愛するコミュニティ
ネット上には、本多さんの著作を愛する内向型人間たちが集うコミュニティも存在します。
参考に「mixi」のコミュニティのリンクを掲載します。
私は参加していませんが、コメントを読んでみると「自分も救われた」という声が非常に多く、改めて本多さんの影響力の大きさを感じます。
最後に
つい最近になって、2024年に本多さんが亡くなられたことを知りました。
今となっては、東京四谷の「現代職業研究所」に直接お伺いして、相談できなかった、お話を直接伺えなかったことが本当に悔やまれます。
ですが、本多さんの言葉は、今も著書の中に生きています。
これからも、心の天気が曇った時には、本多さんの本を心のサプリメントとして読み返していきたいと思います。
ご冥福をお祈りいたします。